カープで一番活躍した外国人はウルソーですか?

塾講師 兼 助っ人外国人のうルソーがカープとアニメと教育についてグチグチ言います。

今更よりもい論(6)「高橋めぐみ論」

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1年経っても色褪せない不朽の名作「宇宙よりも遠い場所」を味わい尽くす今更よりもい論
第六回目はよりもいを語る上で欠かせない名脇役に焦点を当てて書いていこうと思います。

今回紹介するキャラは「高橋めぐみ」
キャラの画像等は公式サイトを見てください。

 キマリの幼稚園時代からの親友で幼馴染。キマリ、報瀬と同じ高校に通う高校2年生。キマリからは「めぐっちゃん」と呼ばれている。「女の子らしい」ことが苦手で物事を冷めた目で見てしまう性格。メガネっ子。というキャラクターです。

 

お品書き



1,めぐっちゃんの気持ち、わかる?

2,なぜめぐっちゃんは許されたのか?

3,20000Km離れた友情

 


《高橋めぐみ論1,めぐっちゃんの気持ち、わかる?》


 宇宙よりも遠い場所第5話は本アニメにおいてかなり異色の回です。それはこのアニメがいわゆる「ヘイトを集めそうなキャラ」が極端に少ないことが原因となっています。四人の女子高生の中に和を乱したり、周囲が萎えるようなことを口にしたりする人間はいませんし、大人組は決して彼女たちの未熟さを貶したり、知識・経験・体力の不足を理由に四人をのけものにしようとしたりはしません。基本的に「いい人」ばかりでウラオモテがないといういかにも最近のアニメにありがちな「ストレス少なめ仕様」です。そんなアニメだからこそ5話のめぐっちゃんの内面の吐露は私たちに強烈な印象を残します。
 
 5話のめぐっちゃんはとにかく惨めに描かれています。彼女が親友を裏切ってまで守ろうとしたのは二人だけが入れる小さな砂の堤防で囲まれた世界。中には澱んだ水だけが溜まっていて他には「何もない」場所です。そんな世界を外から壊そうとする報瀬は敵であり名前を覚える必要もないので頑なに「南極」と呼び認めようとはしません。しかしキマリは自らの手足で這い出て外の世界へ旅立とうとします。彼女の口から語られるのは顔も知らない人間の名前ばかり。めぐっちゃんはなんとか元の澱みの中にキマリを引きずり込もうと必死です。ソクラテスの言葉に「ねたみとは魂の腐敗である」という言葉がありますが、まさにそんなめぐっちゃんの腐った一面を見せられる回です。
 
めぐっちゃんのやったことは決して褒められたことではありません。親友の成功を妬み、成長してゆくことを阻害しようとしたわけですから。ネット上でもこの週は「陰湿クソメガネ」みたいなことを(ネタとしてではあっても)書き込む人が多かったように覚えています。
 皆さんはこのめぐっちゃんの行為をどのように捉えたでしょうか?私はあのシーンを見ながらヘルマン・ヘッセの『少年の日の思い出』を思い出しました。確か中学一年生の国語の教科書に書いてあったやつです。「つまりきみはそんなやつなんだな」でお馴染みのエーミールが出てくるアレです。もちろん私は他人の家から物を盗んだことはありませんし、友人の悪評をこっそり流して南極行きを台無しにしようとしたこともありません。ただこの二つの作品に関して私が共通で思ったことは「なんとなくわかるなぁ」というものでした。
 自分の持っていないものを羨んで妬んで手に入れようとする、もしくはそれを台無しにしてしまおうとする気持ち。そしてその罪の告白を自分からしなければいけない気まずさや相手の反応を伺う時の恐ろしさ。相手から下される審判を待つ間の心細さ。こういった感覚は(犯した罪の大小を問わなければ)誰にでも簡単に引っ張り出すことのできる記憶として残っているものではないでしょうか。概論でも共感や感情移入にとどまらない「記憶の再生」がおこるアニメだと言いましたが、それはこういう部分にも表れてきます。
 
 そして誰にでもわかる感情だからこそめぐっちゃんにはヘイトが集まります。それはそうでしょう。誰しも「ほらお前にも分かる部分があるだろ?おまえもめぐっちゃんと同類のものを持ってるんだよ」と投げかけられればいい気はしませんし、キマリと一緒にこれから旅立つつもりだったところへ「お前はそちら側ではなく、先駆者たちの足を引っ張る側の人間なんだ」と言われれば反論したくもなるでしょう。めぐっちゃんは視聴者からすれば情けない自分の一面であり、それゆえに憎む対象になってしまうのではないかと思います。

 


《高橋めぐみ論2,なぜめぐっちゃんは許されたのか?》


 そんなめぐっちゃんに関して、一つの議論が起こりました。11話の「ざけんなよ」のシーンです。なぜ5話でめぐっちゃんは許され、陸上部は絶縁を叩きつけられたのか。というものです。ある人はめぐっちゃんは心からの謝罪をしたから許されたと言い、またある人は陸上部は髪の毛をいじっていて反省の色どころか日向の心の傷そのものに気づいていなかったと言いました。私もそういう意見には賛成なのですが、そもそもめぐっちゃんは許されたほうが良かったのかということに疑問を感じます。

 ここで今一度『少年の日の思い出』に話を移します。あの物語は「私」の元にきた客の話を聞いているという回想シーンで進んでいくのですが、「思い出を穢した」と語る客(僕)に私は当時から違和感を覚えていました。というのも「自分の黒歴史」について語っている割には饒舌だった(ように見えた)し、最後の「粉々に…」のくだりはもはや自分が悲劇の主人公になったつもりなのかというほどのナルシシズムみたいなものを感じました。悪いのは完全にお前(僕)なのに…。
 私は5話でのめぐっちゃんの懺悔シーンに同じような危うさを感じました。仮定としてあの場面で絶好が成立していたらどうなったかを考えてみましょう。キマリに許してもらえなかっためぐっちゃんはその後家に帰り、寝て、次の日には学校にいきます。表面上いつもの毎日です。キマリがいないこと以外は。高校二年の冬、新たな友人を作るにはすこし難しい時期です。数ヵ月後には南極から帰ってきたキマリ、報瀬は一躍時の人としてチヤホヤされるのが目に見えています。二人には敵としてみなされるでしょうか、それとも徹底的に無視されるでしょうか。どちらにせよ親友を失っためぐっちゃんは一人で学校に行って、一人で弁当を食べ、一人で下校します。そうして名も知らない大学に進学しそこでようやくできた新しい友人に昔話のようにその当時のことを語るのです。「実は私は高校時代に…」みたいな感じで。
 可哀想じゃないですか?哀れじゃないですか?キマリたちの南極行きの犠牲になった友情くらいの脚色がつきそうじゃないですか?ちょっとした居酒屋での鉄板トークくらいにはなりそうな感じです。

 

 それではいけない。

 

 めぐっちゃんが悲劇のヒロインを気取るのは完全にお門違いだし、それではダメなんです。キマリはスーパー主人公(候補)ですからそういう人がダメになりそうな空気には敏感です。すかさずめぐっちゃんを抱きしめ「絶交無効」宣言をします。実はこれはキマリもめぐっちゃんもその瞬間はわかってなかったかもしれませんが、かなり非情な宣告です。
 めぐっちゃんは何も持たない人間だと自覚した上で、南極から帰ってきて人気者になったキマリ(と報瀬)と友人として今後も付き合っていかなくてはいけなくなりました。もし三人で並んでいたら確実に「なんで高橋さんは行かなかったの?」と聞かれます。「日本最年少南極到達者」の友人という肩書きはいつまでも付いて回ることになるのです。こんな惨めなことはないです。ここにきてめぐっちゃんは自身の澱みを解放する必要性が出てきました。しかもキマリが南極から帰ってくるまでの僅かな期間で、です。
 めぐっちゃんは許されたのかもしれませんが、それは同時に「楽になれた」というわけではなかったのではないでしょうか。11話の陸上部が許されなかったことで「楽になれなかった」のと本質の部分では同じです。このアニメは後ろめたいことをした人には「本気で変わろうとする」以外の選択肢を与えないのです。

 

 そしてめぐっちゃんは旅立ちます。



《高橋めぐみ論3,20000Km離れた友情》


 ヘレン・ケラーの言葉に次のようなものがあります。
「光の中を一人で歩むよりも、闇の中を友人と共に歩むほうが良い」

 

 これ平仮名部分「よりもい」になってるじゃん!(かなり余計なのも入ってるけど)絶対ブログで使おう!と思って報瀬論で紹介するつもりだった名言です。しかし色々な記事を同時進行で書き進めていくうちにこの言葉はこの項目でこそ紹介するべきだと思いました。
 この言葉自体はよりもいに当てはめるならやはり四人に贈るべき言葉なのでしょうが、私はあえてこの言葉をめぐっちゃんに贈りたいと思います。何も持っていないことに気づいて、たった一人で北極を目指した少女に。
 彼女はその時孤独を感じていたのでしょうか。だれかに一緒に来て欲しいと願ったのでしょうか。きっとそんなことはないと思います。彼女は一人で歩みを進めながらも、すぐ近くにキマリをしっかり感じていたと思います。
 LINEの通知が少し遅れて既読になったり返事がなかなか返ってこなかったりしても画面の向こうの人間の顔が想像できてしまう。それが親友なのだとキマリは語りました。これ実はキマリの親友であるめぐっちゃんも同じ感覚を共有できていたのではないでしょうか。だから一人で北極に行ってもその成長の過程はしっかり友人と共に歩めていたのではないでしょうか。
 こんなものは私の願望に過ぎませんが、そうだったらいいなと思います。



今回は以上です
読んでいただいてありがとうございました



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