アニメハチナイ感想#7
第7話「笑顔の迷子」
有原と河北の問題は元サヤに納まったものの今度は部費が足りず用具がボロボロに…
出向いた先はバイト先と生徒会室。そこには二つの出会いが待っていました。
そんな第7話の感想と考察を書いていきたいと思います。
笑顔の苦手な二つの理由
公式サイトstoryより引用
野球は金がかかる!ということでみんなでバイトをすることになった同好会。バイトをしようという提案にイキイキしている宇喜多が微笑ましいシーンです。
団長と訪れたバイト先でクソガキに絡まれている野崎を救ったのはかつてドッジボールクラブで一緒だった倉敷先輩でした。バスケ部にはあまりいいイメージのない野崎ですが先輩とやったドッジボールはいい思い出になっているらしく少し反応の鈍い倉敷先輩をグイグイひっぱって野球部に連れてきます。
一方、部費アップのために正式な部への昇格を申請しに行った有原たちは、そこで審査という名目で野球部の活動に加わる九十九先輩を紹介されます。この時の有原の「えっ?」という表情もいいですね。ありはらにとっては2話で練習場所を確保しようとした際に会長にチクられた相手ですからね。融通のきかない相手という認識があったのでしょう。
こうして加わった上級生ふたりは、どちらも野球に関しては素人。しかしその運動センスは最初からかなり高く、メンバーは即戦力の加入を喜びます。
さて、この二人どちらも表情の変化が乏しくクールな印象を与えるキャラで笑顔を作るのが苦手という共通点がありますがその内側ははっきり対照的です。
後輩から即戦力とおだてられても表情一つ変えずに「審査できただけだから入部はしない」と言い放つ九十九に対して、野崎や有原(と団長)に引き止められて困り顔になりながらも「仮入部なら」と承諾してしまう倉敷。その後も照れたり、ムッとしたり、嬉しそうにしたりと意外にも表情豊かなことがあきらかにされていきます。
倉敷はこのあと判明する家庭内の不和により悩みを抱えています。だからプラスの感情よりもマイナスの感情の方がより強く顔に出やすくなってしまっているのでしょう。笑顔が苦手なのではなく文字通り「笑顔が迷子」になってしまっている状態です。
九十九はその点で本当に笑顔が苦手です。運動も勉強もなんでもこなせてしまう故に自身の成長によろこびを感じたり自分の意外な一面を発見したりして笑顔になることが元々少なかったのでしょう。阿佐田に表情筋のことを指摘されて鏡の前で口角を上げる練習をしてみますが全くしっくりきません。マイナスがない代わりにプラスにも大きく振れない彼女は本当の意味で笑顔が苦手なのです。
九十九は同好会の練習に参加することで彼女たちが常に笑顔であること、一見しかめっ面の多い倉敷でも表情を崩すことが頻繁にあることを発見します。自分と似ていると思っていた倉敷が自然と笑顔になれる。そんな同好会に興味を持ったのでしょう。
野球部モノで描かれる家庭問題
野球部モノで部員同士ではなく、親子関係やグラウンドの外での問題を大きく取り上げる作品はあまり多くありません。とくに今回のように家庭内がバラバラでその負担が子どもにのしかかっているというケースはほとんど見かけません。
野球部での充実した時間を終えて帰宅した倉敷を待っていたのは真っ暗な部屋で父親が帰ってこないことを愚痴るように話しかけてくる母親でした。
母親の声は不気味に反響して不協和音として倉敷の耳に届きます。あの母親が何か言ってるけど全く内容が頭に入ってこない感じはすごく気味が悪くて良かったですね。
耐え切れなくなって思わず夜の街に飛び出していく倉敷。
そして酔っぱらいに絡まれて警察に補導されてしまいます。
そして後日呼び出されて担任と部活の顧問(掛橋先生)と親と本人という四者面談が行われることになりますが、ここでもやはり母親の言葉だけが倉敷にはノイズとして感じられます。自分たちのせいだと語りながら、改善の努力をしようとするのではなく倉敷を転校させると言い出す母親。せっかくできた自分の居場所がふたたび大人の都合で奪われようとしていることに我慢できず倉敷はまたも飛び出します。
そして夕日の屋上。
倉敷を引き止めに現れたのは九十九でした。倉敷はきっと九十九を「生徒会から派遣された問題児を監視する役目」の人間だと思い込んでいたのでしょう。
そんな九十九から「笑顔でいてほしい」という言葉をおくられ倉敷の心は解きほぐされていきます。敵だと思っていた人物からの言葉は母親の時のようなノイズまみれではなくまっすぐ心に届きました。
倉敷は(本人にとっては)これ以上ない心からの笑顔でその言葉に応えました。
野球というスポーツはルールがややこしくてとってきにくいスポーツではありますが、本質は「飛び出していったランナーを誰にも邪魔されずに家(ホームベース)まで無事に帰らせることが出来た」回数を競うスポーツです。
飛び出していった選手が家に帰ってこれないなら、どこかの塁で止まってしまっていたらチームメイトがみんなで帰宅を手伝ってあげる。そんなスポーツです。
だから今回の倉敷が二度飛び出していくシーン、先生に呼び出された倉敷を心配してみんなで探すシーン、屋上での説得シーンはすべて「野球が孤独な個人戦ではない」ということを表していて良かったですね。
ホームベース(家)は何も実家である必要はありません。チームメイトの待っていてくれる部室であったりグラウンドであってもいいと思います。 無事生還を果たした彼女はネームプレートに書いてある(仮)を消して彼女たちの家族の一員になることを決めるのでした。
生徒会って本来こういうことだよね
さて、今回の話では生徒会長能見と役員の九十九という二人のキャラクターが登場しました。そこで多くのアニメファンは「こいつらが部への昇格に待ったをかけてきて、対立する展開になるんだろ?」と思ったことと思います。
たしかにアニメだと頭の固い生徒会がPTAや理事会の手先のように生徒の自由な活動を阻害するという展開はよく見かけます。
しかし、そもそも生徒会は生徒一人ひとりの届きにくい声を集めて学校側と交渉する機関としての役割も持っています。彼女たちも本来は青春の真っ只中を生きる少女たち。夢や希望をもって頑張っている同世代と古い考えの大人たちのどちらに味方したいかなんて考えるまでもありません。
だから今回の能見&九十九のようにむしろ同好会の手助けとなるべく動いてくれる生徒会はアニメでは新鮮ですがとても良い存在だと思います。
夢に向かってがんばる同好会。九十九はそんな彼女たちが羨ましくもあり、また自分もその中でなら変わっていけるのではないかと思ったのかもしれません。その変化は九十九に能見会長も驚くような行動をとらせます。教師の前で倉敷を擁護し積極的に同好会への所属を勧めた一言「ありのままの自分でいられる場所」。それは他でもない自分が感じたものだったのでしょう。
そうして素直に自分自身が成長するよろこびを感じることができるようになった九十九は自然と顔をほころばせていました。
そんな彼女の小さな変化を感じ取った能見会長が背中を押してくれるのもいい関係ですね。
これからも九十九と野球部のよき理解者として登場してもらいたいキャラです。
余談になりますが、四者面談のシーンで担任があまりゴチャゴチャうるさく倉敷を追求しなかったり、掛橋先生が母親に諭すように野球部での倉敷の様子を伝えているシーンは結構個人的に好きです。
倉敷のような難しい生徒にも上から決めつけたりせずに話を聞いたり、見守ってあげようという教育者の心意気みたいなものが感じられた良シーンだったと思います。
おわりに
残すところあと5話。次のサブタイトルが「夏に向かって」とのことでいよいよここから試合に向けた本格的な野球パートがスタートしそうですね。(ホントにするかな?)
どこの学校とどんな試合をするのかわかりませんが、楽しみにしていたいと思います。
それでは。