アニメハチナイ感想#10
第10話「背中に翼」
夏大会まであと2週間。
練習にも熱が入る里高ナインの前に立ちはだかるのはレギュラー問題と金髪ツインテール。
これまでやってきたことは無駄ではなかったと証明するための第一歩。
そんな第10話を振り返っていきましょう。
レギュラー発表
公式サイトstoryより
いよいよ夏大会が近づき、練習にも気合が入る里高ナインの元に謎の金髪ツインテールがやってきたところで前回の話が終わっていたのでその続きからです。
ツインテールは向月高校の高坂椿。全国クラスのピッチャーでした。
しかもその向月から練習試合の申し込みが。
大会前に試合ができるとよろこび、気合を入れる有原でしたが、彼女にはキャプテンとして重要な役割が残っていました。
それは大会も含めたレギュラーと補欠を決めて全員に通告すること。
有原はこれまでも「みんなが野球を嫌いになること」を恐れてきました。
そんな彼女にとってレギュラー発表はさぞ心の痛むことだったに違いありません。
補欠になる人は「試合に出られないなら野球をやっても面白くない」と思ってしまうだろう。有原はそれでもチームが勝つために選別をしなければなりませんでした。
東雲の言うように「仲良し」だけではチームスポーツはできないのです。
そして運命の発表の日。
レギュラーから漏れたのは創設に携わった河北と宇喜多の二人でした。
ここで有原が河北を外す選択ができたのが素晴らしいですね。
親友でも戦友でもない関係になった二人でしたが、そこのところは非情に徹することができるんだなぁと感心したと同時にまぁ外すならこの二人か野崎しかいないよなとも思いました。
メタ的な発言をしてしまえば、全国大会は残り2話で消化することになりますがここで補欠に回された二人が全く試合に出られないはずはなく、むしろここで外れたからこそ一打逆転のチャンスや絶体絶命のピンチでの代打や守備固めで登場するしかなくなります。そうなった時にドラマを作りやすいのは阿佐田、九十九、団長などではなく宇喜多、野崎、河北あたりだろうと思っていました。
そういう意味では今回の人選は物語的にはさもありなんといった感じでした。
さて、そうなると補欠のふたりは何をするのか?
草野球ならまだしも大会に出るレベルの硬式野球なら試合は11人いないと行うことができません。それはレギュラー9人以外にランナーコーチが2人必要になるからです。
ランナーコーチは味方の攻撃中、1塁と3塁のコーチャーズボックスというコの字型のスペースからランナーに様々な指示を送ったり、サインプレーの起点としてサインを送ったりする役割の人間です。
高校野球では普通、チームの中から打順には関係ない選手が務めることが多く、里高のように補欠の中から専属の人間を立てることも少なくありません。
古くは98年甲子園の横浜対PLの試合ではPLの3塁コーチが横浜高校の捕手の構えから球種を読み声援の振りをして打者にそれを伝えたことにより松坂大輔を攻略しようとしたというエピソードがあります。
それくらい大事なランナーコーチ。二人も胸に秘める思いはあるもののそれをぐっと封印してチームのためにコーチャーズボックスから戦うことを決意します。
強豪校の3軍ってどのくらい強いの?
迎えた練習試合当日。
現れた向月高校野球部はなんと3軍でした。
とはいえ不祥事を起こしてチーム再建中だった清城に12-1でコールド負けをしたようなチームですから相手としてはこれくらいでちょうどいいと思ったのでしょう。
夏合宿でどんな練習をしたかも知らずに舐められたもんです。
…とここでひとつ素朴な疑問が。
女子野球部の全国ベスト4くらいの実力の高校の3軍ってどの程度の実力なんでしょうか?
ベンチ入りが18人くらいだとして、1軍18、2軍18、3軍18なら一つの部活に50人以上の選手が在籍していることになります。全国で30校程度しかない競技のトップ校に有力な経験者が50人も集まることがあり得るのでしょうか?
下手したら2軍、3軍は里高のように高校内で運動神経のいい人を集めてきたいわゆる初心者組なのではないでしょうか?
実際女子硬式野球部について詳しく調べたことがないのでわかりませんが、高坂も有原たちが初心者集団だと思ったから3軍の練習試合を申し込んだのではないでしょうか?
そんな私の疑問は試合開始後すぐに解けることになります。
初回、気合の入りすぎている倉敷先輩から幸先よく向月が先制したものの、点を取られたことでむしろ冷静になった倉敷先輩の前に向月打線は追加点を奪えません。
するとその裏有原のホームランをきっかけに中軸に連打が出て一気に里高が3点を返し逆転に成功します。
やっぱりそれだけの部員数をすべて有望経験者だけで確保することなんてできないですよね。
というわけで同じ初心者あがりならお寺の無限合宿を乗り越えた里高に分があります。
序盤は里高がリードのまま折り返します。
宇喜多茜の物語
そんな中一人浮かない顔をしている人間がいることに有原は気がつきます。
宇喜多茜。
彼女は自分の中の劣等感と格闘中でした。
初回の中野の単独スチールのサインがベンチから出ていたことに気づけず、4回には相手のミスの間に二塁を狙った有原がアウトに。しかもそのプレーで相手の向月選手は懲罰交代までさせられている始末。
彼女は自分も勝利に貢献していないのだから交代させられるべきなのでは、と感じていました。
試合は5回に入って里高にもボロが出始めます。試合での先発は初挑戦の倉敷先輩は初回から飛ばしていてすでに肩で息をしている状態。守備も決していいとは言えず向月が連打、送りバント、タイムリーで2点を返し試合を降り出しに戻します。
おそらく宇喜多の頭の中では4回裏の走塁死がなければ、あそこから得点出来ていたはず。そうすれば今もまだリードを保っていられたはず。とか考えてしまっていたんじゃないでしょうか。
同点に追いつかれて、ついに宇喜多はベンチから動くことができなくなってしまいます。
「サードコーチの方が責任重大だし、コーチもだれかに代わってほしい」
「茜、ここで見てるだけでいい」
「せっかく勝てそうなのに」
そう言って自分が試合には必要ないのではないかと語る宇喜多に有原は語りかけます。
「同好会を始めたとき私は茜ちゃんのやる気に救われたよ」
たしかにみんなが有原を白い目で見ているなか一番に体験入部を表明したのは宇喜多でした。彼女がいなければ野崎があの河川敷体験会に来ていたかどうか。そして後に続くメンバーたちも入っていたかわかりません。
「だからこんなところで負けて欲しくない。最後まで一緒に戦い抜いて勝とうよ」
そんな風に笑う有原に対して宇喜多は震えた声で言います
「茜も勝ちたい。でも怖いんだよ」
「だから…力を貸して」
8話の考察でも書きましたが、人間は年をとればとるほど相手に助けを求めるのが下手になっていきます。迷惑をかけたくない。自分の力量不足をさらけ出したくない。周りの目やプライドがジャマをするようになります。
宇喜多にとってその言葉を発するのはやはり勇気のいることだったのでしょう。
その言葉に有原は応えます。
背中に力を込めた闘魂注入。力を貸してってそういうこと?って思いましたが宇喜多にとって弱さをさらけ出した自分を拒絶しなかった有原の態度こそが救いになったのでしょう。
ふたたびコーチとしてボックスに立つことを決意します;
そして迎えた5回裏。
ヒットとツーベースで掴んだ1アウト二・三塁のチャンスでバッターボックスには九十九。ベンチのすずわかからはスクイズのサインが出ます。
これを九十九がしっかりと決めて、1点勝ち越し。
と思いきや宇喜多は相手のプレーの隙をついて二塁ランナー有原もホームに突入させます。クロスプレーの結果はセーフ。
取られたすぐ後の回にふたたび突き放すツーランスクイズを成功させます。
その後出てきた向月のエース高坂には手も足も出ず、さらにタイムリーで点を失ったものの他の3軍メンバーには仕事をさせずになんとか1点差で逃げ切り試合終了。
嬉しい嬉しい対外試合初勝利となりました。
勝利の瞬間ベンチから飛び出して有原とよろこびを分かち合った宇喜多の目には喜びの涙が溢れていました。
これを見るにアニメ版ハチナイは(アプリ版でもそう感じたことはありますが)やはり初心者組の物語なんだなぁと感じました。
普通なら有原、東雲を中心に運動神経のいい選手が活躍するのを描くのがスポーツアニメの定石なんでしょうけど、このアニメでは彼女たちが活躍するのは当然のこととしてそれを見つめる初心者組(補欠組)の視点が妙にナマナマしいんですよね。
おそらく今まで野球モノを見てきた人たちがハチナイに違和感を感じているならそれはそういう部分なのではないでしょうか。
言ってみれば『MAJOR』の聖秀学院編を内山や宮崎の視点から見ている感じです。
(藤井の視点でもないのがミソです)
ネットでも「どういう方向性のアニメかわかならい」という意見を度々目撃しましたがそういう人たちが例に挙げているのはダイヤのAやMAJORなどでした。
そういう人たちに是非アプリ版をプレイしてほしいなと思います。
春大会に出た有原たちが勝ち上がっていく様をある3人の部員(全員初心者でかつそのうち2人はベンチ入りすらできずにスタンド観戦)の視点で描いたとてもいいシナリオがありますので。
おわりに
残すところあと2話。
全国大会はあっさり負けてしまうのか、それとも清城相手に波乱を起こすのか。
楽しみにしたいと思います。