カープで一番活躍した外国人はウルソーですか?

塾講師 兼 助っ人外国人のうルソーがカープとアニメと教育についてグチグチ言います。

アニメ「荒野のコトブキ飛行隊」感想

こんにちは うルソーです。

2019年も3ヶ月が終了。新元号が令和と発表になりました。
アニメも冬クールが終了し今週からは春クールがすでに始まっています。
もうどれを見るか決まっているひとも多いことと思います。

今回は2019年1月~3月まで放送されたアニメ「荒野のコトブキ飛行隊」について語ろうと思います。
多大なネタバレを含みますので未視聴で見る予定のある方はご注意ください。

作品の詳しい設定やキャラクターなどは公式ホームページからご覧下さい。





作品の概要としましては製作GEMBA、監督水島努、構成横手美智子によるオリジナルテレビアニメです。アニメ放映期間中に同名のスマートフォン用アプリもリリースされました。
過去に当時の日本とつながり、交流を持ったことがある異世界イジツを舞台に空路による物資輸送を生業とするオウニ商会に所属している用心棒「コトブキ飛行隊」の活動を描いた物語です。
作品には旧日本軍で使われていたようなレシプロ飛行機が登場し、3DCGによって迫力のあるドッグファイトが描かれています。一方で活躍するのは女性隊員だけで構成されたコトブキをはじめとした女性パイロットたちであり、いわゆるミリタリーものでもなければ、プロペラ機の知識を要求してくるものでもありません。どちらかというと異世界ファンタジーに近い作りになっているので単純な興味だけで見始めても十分楽しめるのではないかと思います。


==========お品書き==========

幕の内弁当かトンカツ弁当か

異世界イジツの日常系?

王道バトルファンタジー?

===========================


《幕の内弁当かトンカツ弁当か》

創作に関わらず、何かを人目に晒したり人前で発表したりするとき、人は自分の伝えたいことをどこまで出すかということに悩みます。時間も容量も無限ではないので伝えたいことを全て盛り込む訳にはいかないからです。

そういう時よく見かける意見が「最高級品を揃えられないなら幕の内弁当は出すな」というような意見です。焼き魚、だし巻き卵、かまぼこ、煮付け、漬物それにご飯。量は一口サイズでもしっかり味わうことができてどれも美味しい。幕の内弁当を楽しみたいと思っている人はそれを望んでいます。だからこそおかずひと品ひと品が全て100点を求められます。もし揃えられないならトンカツ弁当のようなどれかひとつに特化した商品にしてしまったほうがマシだ、という意見です。

創作に置き換えると、キャラクター、台詞回し、作画、音楽、伏線やどんでん返し、情景描写など制作側が気を配らなくてはいけない部分は数多くあり、全てを高水準でまとめることが一番ですが、もし無理ならあれもこれもと欲張らずに一点集中にしてしまうのもアリということになります。
例えばロボットものならバトルシーン、シリアスな恋愛ものなら声優さんの演技、日常系ならキャラの可愛らしさといった感じでしょうか。

荒野のコトブキ飛行隊は、監督が水島努さんということもあって多くの人がガルパンのような高級幕の内弁当を期待していたかもしれません。しかし無理だったのかあえてそうしなかったのかはわかりませんが総合的な完成度はイマイチな作品でした。その分かなり空戦シーンに特化したアニメになっています。そのせいでネットでは世界観がわかりにくい、キャラの掘り下げが不足している、展開が唐突すぎるといった批判も多く見受けられましたが一方で空戦シーンは好評だったようで「CGと音はよかった」という意見は多かったように感じました。

私はプロペラ機のエンジン音やプロペラ音を生で聞いたこともなければ、当時の資料映像をろくに見たこともないので正直このアニメの空戦シーンがリアル路線なのかファンタジー路線なのかさっぱりわかりません。それでもスマホアプリの周回プレーの片手間ではなく画面を食い入るように見てしまうだけのスピード感やワクワク感は受け取ることができました。

マジェスティックプリンスを見たときにも思ったのですが、キャラに気に入らない人物がいたり、台詞回しが気になるようなアニメでも戦闘シーンのようなケレン味たっぷりの見せ場があるだけで30分見終えたあとに「いいもの見たな」と思ってしまうものです。

コトブキはそれに加えて世界観の雰囲気(B級マカロニウエスタン的世界観)や昔の映画っぽいテーマ曲(テーマ曲がいろんなアレンジで別シーンで使われるやつ)など個人的にクリティカルヒットな部分が多かったのでとても楽しく見ることができました。

そういう意味でこのアニメは良質のトンカツ弁当足り得るものだったといえるでしょう。




異世界イジツの日常系?》

ここでコトブキの世界観を少しだけおさらいしておきましょう。
1話のラストで主人公のキリエがこのように述べています。

その昔、世界の底が抜けて、そこからいろいろなものが降ってきた。
いいものも、わるいものも、うつくしいものも、きたないものも、いろいろなものがあった。
そして今、再び世界は閉じられて
私達は、いろいろなものをうしないながら生きている。


異世界イジツはかつて空いた穴によって異世界とつながり、そこからやってきたユーハングなる人々から様々な物を受け取りました。中でもイジツの生活を一変させたものはプロペラ飛行機でした。海がなくなり荒野ばかりが続くイジツでプロペラ機はなくてはならない交通手段となったのです。ユーハングはそれ以外にも様々な影響を与えた後イジツから突如去って行きました。
コトブキの舞台はそれからずっと後のイジツが舞台です。

私はこの設定をしったとき単純に面白いなとおもいました。少し前まで1クールに一つは異世界転生ものか異世界召喚ものが放映されており、異なる世界がある日接点を持ってしまうという設定自体は誰もが受け入れやすくなっています。本作はそれを異世界側から、しかもその来訪者が去った後の住人たちの立場で描いています。

異世界側の人が来訪者をどのように扱っているのか、それがいなくなったとき人々の生活はどう変わっていくのか、そのようなよくあるラノベのその後を描いているのがとても興味深かったです。

例えばイジツには航空力学のようなものがないのでしょう。既につくられたプロペラ機を修理したり複製したりすることはできてもまったくの新型機体を設計することはできないようです。街の守り神のような存在にされていた雷電をエリート興業が欲しがったことからも、次々に高性能の機体が開発されている状況ではないことが伺えます。
そして海がなくなり交通をほぼ全て空路に頼るとなると、重たい荷物を大量輸送することができなくなります。交易ができなくなった都市は次第にすたれ滅んでしまいます。それをユーリアとサネアツが飛行船から眺めているシーンは印象的でした。

飛行機が異世界から持ち込まれて一変した人々の生活が、ゆるやかに衰退していく世界での人々の暮らしはまさにそこにある「日常」です。図書館でイケスカで刊行された本を注文する男、結婚式でしか食べられない魚、アノマロカリスのぬいぐるみ、レオナの昔の知り合いの郵便屋さん、人だけをのせる乗用車を珍しがる、そしてなによりもクーリルやボットルといった聞き慣れない単位。しらない土地の風俗に触れている感覚は創作物の中であってもワクワクするものです。

コトブキはこういった異国の地の日常とそこにひっそりと紛れ込んでいるユーハングの置き土産たちを眺めているだけでいろいろな想像ができるアニメです。説明されていないからこそ画面から読み取れる様々な発見を楽しむとより味わい深くなるでしょう。



《王道バトルファンジー?》

もちろんコトブキの売りは日常パートだけではありません。3DCGによる迫力の空戦シーンはまさにトンカツ部分。そしてそれを通じてだんだんと見えてくるコトブキ飛行隊の面々の素顔や葛藤、世界を牛耳ろうとしている勢力との対立などがこの作品の大きな魅力です。それはどこか昔ながらの王道バトルファンジーアニメのようでもあります。特別な才能をもった6人の女性パイロットが世界を統一し利益を独占しようと企む男を阻止するために立ち上がり、かつての敵と手を取り合いながら勝利へと向かう。そしてなぜ自分は空を飛ぶのかというアイデンティティに関わる問いの答えを見つけていく。そんなベッタベタな展開こそがこの作品の魅力なのです。トンカツ弁当を出すならそうでなくてはいけません。カツの上にミートソースやデミグラスソースをのっけるのは反則ですし、おいしくありません。奇をてらわずベタ展開をやりきったところがとても評価できるのではないでしょうか。

そういう意味でいちばんベタだったのがイサオというキャラクターですね。ユーハングがいなくなってしまった世界で富を独占し、権力を集中させるにはどうするか。飛行機を免許制にしたり、同盟への加入を迫ったり、穴に関する情報を独占したり、実にわかりやすい悪い為政者の行動を取りながら周りからは絶大な支持を集めます。最後には狂人じみた言動とともに穴に吸い込まれていくあたりもベタな悪役っぽくて好感が持てました。

そのイサオにキリエが唯一一矢報いるラストシーンがまたベタ。
キリエ激怒→怒りと恨みでは勝てない→サブ爺登場→「飛行機は飛ばすもんじゃない」→アクロバティック射撃の流れはどこのGガンダムだよ、明鏡止水かよと突っ込みたくなりました。
でもそれがいい。本当に予想外のことは何一つ起きませんでしたが最後まで飽きずに見ることができたのは製作陣の腕によるところが大きいのでしょう。
今後もこういったいい意味でベタな作品が生み出されていくといいですね。こういうのばっかりだと困りますが・・・


さて、最後にコトブキの作中に登場した名言をひとつ紹介しておきたいと思います。
サブカルチャーから就職活動、はては政治哲学にまで通用する素晴らしい言葉です。

「人を支配しようなんて無益なことよ」
「無益ですか?無理ではなくて?」
「ええ」
「それではマダムにとって利益とはなんですか?」
「選択肢が豊富にあることよ」


規制、規制で似たようなものばかりが作られる世の中。違うこと、選択肢が多いことはどんどん贅沢になっていくのかもしれません。いつもどんなときでも幕の内かトンカツか好きな方を選べるそんな愛目業界であってほしいなと一ファンは思うのでした。

それでは。