カープで一番活躍した外国人はウルソーですか?

塾講師 兼 助っ人外国人のうルソーがカープとアニメと教育についてグチグチ言います。

今更よりもい論(4)「小淵沢報瀬論」

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1年経っても色褪せない不朽の名作「宇宙よりも遠い場所」を味わい尽くす今更よりもい論
第四回目は真打ち登場ということで主役に焦点を当てて書いていこうと思います。

今回紹介するキャラは「小淵沢報瀬」
キャラの画像等は公式サイトを見てください。
キマリと同じ高校に通う高校二年生。観測隊員であった母が南極で行方不明になった時からずっと南極に行くことを夢見てきた。
2001年11月1日生まれ(さそり座)。身長163cm。血液型はB型。好きなものは「ペンギン、動物全般、柿の種」というキャラクターです。

 

お品書き



1,なぜ小淵沢報瀬は魅力的なのか

2,11話へ繋がる成長の軌跡

3,しゃくまんえんで手にいれたもの


小淵沢報瀬論1,なぜ小淵沢報瀬は魅力的なのか》


 小淵沢報瀬の魅力、それは一言で言うと「彼女の信念」にあるのではないかと思います。9話では「吟ちゃんの魂」と表現されたものですね。どんな困難な場面であっても折れないつよい意思、何度も何度も挑戦し乗り越えていくあきらめの悪さ、周りからどう思われようと曲げることのない信念。私達はそういったものを見せられるとき、そのキャラクターを通して日本人の魂のようなものに触れることになります。
 NHKの名物番組プロジェクトXに登場する多くのリーダーたち、週刊少年ジャンプをはじめとした多くの少年漫画の主人公たち。彼らは目の前に立ちはだかる難題に立ち向かうと同時に、いつも世間の目と戦っても来ました。「無駄金だ」「やる意味がない」と言われながらも国民の生活を豊かにしようと奮闘したリーダーたち、「お前がいるせいで争いがおこる」「血筋が呪われている」と忌み嫌われたジャンプ系主人公たち。彼らは最後には批判ばかりしていた人々をも巻き込んで勝利へと向かっていきます。私達はその姿にいつも胸を熱くしてきました。
 一方、よりもいが放送されていた2018年、日本企業は元気がなくなりカリスマ的なリーダーは不在、ネットではちょっとした不用意な発言が叩かれるようになり「言いたいだけのこと」は「言ってはいけないこと」になりました。なるべく叩かれないよう、周りから悪目立ちしないよう生きることを強いられるようになった世の中に少なからず閉塞感や息苦しさを覚える人たちもいました。
 小淵沢報瀬はそんな時代に颯爽と登場しました。自分から苦難の道を選び、そのせいで周りと折り合いが悪くなっても気にしない。敵味方をはっきり特別し、敵に対しては波風が立つのも恐れず、言いたいことをはっきり言う。現代ではなんと叩かれやすい人物像なのでしょうか。でも、だからこそ報瀬の行動には注目が集まります。その姿に憧れを抱く人も現れます。そして「ざまあみろ」や「ざけんなよ」といった現代では「言うべきではない言葉」に「よくぞ言ってくれた」と称賛が送られるのです。自分たちがいつの間にか言えなくなってしまったことを代弁してくれる報瀬に私たちはとてつもない魅力を感じるのです。
 ウィンストン・チャーチルはこう語ったといいます。「敵がいる?良いことだ。それは人生の中で何かのために立ち上がったことがあるという証だ。」と。まさに報瀬の中に息づく日本人が古くからもっていた「魂」のようなものを言い表した名言だと思います。これを今の日本の政治家が口にできないのは寂しいことですね。今後日本に報瀬のようなリーダーが増えていくといいなと思わずにはいられません。(まぁ 本人は解任されていますが…)



小淵沢報瀬論2,11話へ繋がる成長の軌跡》


 前項で紹介した報瀬の魅力が最大限に発揮されたのはやはり11話のラストシーンではないでしょうか。日向を迫害した陸上部に対して言い放った「ざけんなよ」には当時もかなりの反響がありました。あの11話はそれ単体で見ても面白いのですが、1話からの報瀬の変化を追ってきている視聴者はより一層感慨深いものがあったのではないでしょうか。この項では報瀬が劇中でどう変化していったのかに注目して見ていきたいと思います。
 まず最初の変化は2話のラストで訪れました。この回は日向加入と夜の新宿疾走という二大イベントにうもれがちですが、重要な報瀬の変化を描いています。それは帰りの電車内でのリーダー解任劇。このふざけた儀式をもって報瀬は正式にキマリ、日向の仲間になります。それまでは「計画を立てたのは私だから逆らうな」「嫌になったのなら一緒に来なくてもいい」というようなスタンスで自分中心の南極渡航に目が向いていますが、リーダーを降ろされたことによって周りの意見を無視できなくなっていきます。同時に報瀬は自分がリーダーとして強権を振るわなくても、このふたりは自分の意志で南極に行こうとしていることが確認できたのだと思います。
 次に大事なのが4話のオリエンテーションのシーン。ここでスライドに映される「仲間を孤立させるな」という文字。報瀬にとって3人に出会うまではもっとも軽視していた「周りの人間」がいなければ南極では生きてはいけないことを隊長たちから教えられます。そして朝焼けを見ながら「四人で行こう」と誓い合います。
 そして11話に直接繋がる6話後半。報瀬ははっきりと「四人でいくこと」が最優先だ。そこに意地を張ることは「間違ってない」と言い切ります。このあたりは13話の夏隊代表挨拶のシーンで「仲間と過ごすこの時間を愛した」と実感を込めて語っています。
 こうして徐々に何が何でも南極に行くという思いから、みんなで南極へという想いに変わっていった報瀬にとって日向が傷ついて悩んでいることはもはや他人事ではありませんでした。軽い気持ちで復縁をせまる日向のかつての同僚に毅然とした態度で立ちはだかります。おそらく友のために報瀬が涙を流すシーンもここだけではなかったでしょうか。

 と、まぁこれだけでも報瀬は成長したなぁ。と感慨にふけることはできるのですが、このシーンにはもう一つ重要な意味があります。それは貴子を失った場所へ再び行くことをためらう吟隊長の背中を押したのが図らずも報瀬の言葉だったということです。
 9話の船上で報瀬と会話した吟隊長はおそらく報瀬がまだ本当の意味で母親の死を乗り越えられていないということに気づいていたのでしょう。貴子を失った場所へそんな報瀬を連れて行くことへの迷い、そもそもそういう状況を作ってしまった(と思っている)罪悪感、そういったものがその場所へ行くことをためらわせていたのではないでしょうか。

 しかし、報瀬は目の前の敵を見据えてはっきりと言いました。

「つらくて苦しくて、あなたたちのこと恨んでいると思っていたかもしれない」
「毎日思い出して泣いていると思っていたかもしれない。けど…」
「もうとっくに前を向いてもうとっくに歩き出しているから」

 この直後隊長は内陸旅行を決意するように立ち上がります。親友の娘は母親の死を受け入れられないでいるが、その覚悟はとっくにできていて自ら踏み出そうとしていることが伝わってきたから。私はどうしても大人組に年齢が近いせいもあり、子供たちが一生懸命自分たちで成長しようとしている姿を見ると涙腺が緩んでしまいます。このシーン、私個人としては友人のために立ち上がったことよりも、自分の言葉で隊長達に伝えられたことの方が報瀬の成長を実感して嬉しくなってしまうのでした。



小淵沢報瀬論3,しゃくまんえんで手にいれたもの》


 12話については多くを語りません。あれは誰かが言葉で解説するものではなくてただただ心で感じるものだと思うからです。というより未だに私は12話を見るだけで号泣するし、その号泣の意味が言葉にできるほど正確に理解できていないからです。涙には自分が可哀想だから流す涙と、ただただ溢れてくる涙があると言いますが、まさに後者の涙なわけで、理屈をこねて語るものではありません。
 というわけで最後の項では置いてきたしゃくまんえんについて語ろうと思います。最終話のラストシーン。エンディングテーマがいい感じに流れる中、報瀬はとんでもないことをサラッと暴露します。しゃくまんえんは宇宙よりも遠い場所に置いてきたと。あのシーン個人的には直前で日向が次の旅の資金としてあてにしているらしいことを述べているのがツボなのですが、それはともかく三人ならずとも驚かされたシーンではないでしょうか。
 報瀬はなぜしゃくまんえんを置いてきたのでしょうか。いろいろ解釈できると思います。もう一度南極にいくという決意、母親との別れの儀式、物質的な精神安定剤はもう必要なくなったからなど… 私は単純に手に入れたものの対価として支払われたのではないかと思っています。
 友人の尊さ、母を知る人物たちと共有できた思い出、母親と画面越しに再会し別れた喜びと哀しみ。そういった日本にいたままでは手に入れることができなかった多くのものを手に入れて報瀬は帰路につきました。その際には「自分にはなくても平気」と形見のノートPCすら南極に残しています。そういった物質的なつながりではない精神的な充足感を得た対価としてしゃくまんえんは支払われたのではないかと思っています。その場合支払われるべき相手はやはり観測隊ではなく南極大陸に対しての方がしっくりきます。
 結月論の時にも紹介した伊坂幸太郎の「砂漠」にこんな言葉が出てきます。「人間にとって最大の贅沢とは、人間関係における贅沢である」
 報瀬にとって南極で手に入れた贅沢品は100万円どころかそれよりもはるかに高い値打ちものだったにちがいありません。今後報瀬は芯の強さや信念はそのままに、周りにも気を配れる素晴らしいリーダーに成長していくのでしょう。そういった活躍が描かれることはありませんが、後日談的なものがショートムービーとかにならないかなと期待もしています。

今回は以上です
読んでいただいてありがとうございました

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